

2025.7.19
今朝のベンバルベンは、頭に雲の帽子をかぶっていた。
今日はここ、モニーゴールドのB&B、Rowanville Lodgeを出発する日。
出発の朝は、宿で朝食をいただこう!と、昨晩パトリシアさんに朝ご飯を頼んでおいた。
(前日の夜、翌日の朝食を頼みに行くと、ドアノブにかける白い札を渡された。札は書き込めるようになっていて、朝食の種類、フルアイリッシュなのか、ミニなのか、マッシュルームやトマトはすべてのせて良いか、飲み物は何にするか、アイリッシュブレックファストの他にも、ヨーグルトとグラノーラ&フレッシュフルーツの朝食や、サラダ中心のベジタリアンメニューなど、確か6種類くらいから選んでチェックを入れるようになっていた。前日夜に、それをドアノブにかけておくとオーダーが入るということらしい。)
我々は、フルアイリッシュブレックファストを。
朝、朝食会場に行くと、パトリシアさんは堂々とした雰囲気で「さあ、椅子に座って。準備はできているわ」と我々を席に案内してくれた。席の横には末っ子用におもちゃと子供椅子を出してくれてあった。
ダイニングはベンバルベンに向かって大きく窓が開かれていて明るかった。ほかにも二組のご家族が朝食をとっている。
パトリシアさんのフルアイリッシュブレックファストは、「母ちゃんのなんちゃってアイリッシュブレックファスト」とは違い、ホワイトプディングもブラックプディングも分厚くて、ソーセージもこれでもかというくらい大きかった。
加えてあとから、お手製のソーダブレッドもほんのり温めて持ってきてくれた。大きな塊のバターも一緒に。
お給仕するときのパトリシアさんは、この仕事に誇りを持って威厳があり幸せそうだった。
ダイニングルームを出てすぐの、厨房とつながる廊下には、色んな家族写真が所狭しと飾ってあった。聞けばお二人には6人の子どもがいて、もうみんな成人して家族を持っているという。息子さん夫妻とお孫ちゃんたちの写真や、娘さんが学位記をとった写真などが、びっしりと貼ってあった。今よりお若いお二人が、子供さんたちと写真に納まっている(どの写真も、写真館で撮ってもらうときのような立派なやつだ)。B&Bを二人で営みながら、6人の子どもを育て上げたのかーと、彼らの人生に想いを馳せる。

お腹いっぱいの朝食後、チェックアウトをしようと準備していると、ご主人のマシューさんが「バス停まで送っていくよ」と声をかけてくれた。子供たちがその姿をポカンとしてみつめていると、マシューさんは子供たちに向かって「Hello、ハイ、言ってごらん?Hello」と身振り手振りを加えて話しかけている。
案外、お茶目な人なのかもしれない。
パトリシアさんに「このあとどこに行くの?」と聞かれたので、「ドラムシャンボです」と答えると
「ドラムシャンボ?!なんでそんなところに行くの?」と怪訝顔。
「伝統音楽のサマースクールに参加する予定で…」と言うと「あら、それならスライゴでもやっているわよ」と言って大急ぎで厨房に戻り、スライゴの夏の催し一覧だろうか…。リストを持って戻ってきた。
「ドラムシャンボなんて行かないで、スライゴのサマースクールに出なさいよ。音楽のも、イエイツの勉強会もあるわよ。こっちのほうがきっと良いわよ」とパトリシアさん。スライゴへの自信。
なんだかパトリシアさんらしいなあと思ったら、笑いと感動の涙みたいなヘンテコなものがこみ上げて、なんとも言えない苦笑いになってしまった。
「ちょっと待ってて」と言ってまた厨房に戻ったパトリシアさん、
手にスニッカーズのチョコレートバーを持って現れて、子供たちに手渡してくれた。
「今度はアイスクリームが食べたいって、ちゃんと言うのよ」と言いながら。
マシューさんの車に夫が荷物を運び込む。
パトリシアさんにハグして、何か気の利いたことの一言でも言いたいと胸いっぱいでいる私に、彼女はひとこと。
「もしまた来るなら、スライゴのサマースクールの方が良いと思うわ」
最後まで、パトリシアさんはパトリシアさんだった。

バス停でマシューさんに降ろしてもらい、スライゴ中心部へ。
今日は昨日よりも天気がよさそうだ。


パトリシアさんが言っていたように、この日の翌々日から
イエイツを学ぶサマースクールが開催される(毎年開催)らしい。
イエイツ記念館の前では、プログラムを張り付ける作業が始まっていた。

次のバスまで少し時間があるので、ガラポーク川沿いを散歩し
スライゴの郵便局へ。
旅も後半。持ってきすぎた荷物が色々あり、ここから先はすこしでも身軽になろうと、日本へ送り返すことに決めたのだ。
二つ持ってきていたおんぶひもは一つに、そして旅の間でちょこちょこと買った本、日本から持ってきて読み終えた本たちが、日本に一足早く帰ることに。
日本までの小包、34€。
航空便、急ぎの船便、ゆっくりの船便と3種類から選べたので、一番安いゆっくりの船便を選んだ。
と、いま、荷物を送り返したばかりなのに
郵便局の並びに、素敵なクラフトショップを見つけてしまった。
ベンバルベンを描いた絵ハガキや、地元スライゴの作家さんたちだろうか、陶器にガラス細工に、木工品。
さっき荷物を送り返したばかりなので大きなものは残念ながら買えなかったが、
美しいイラストの、アイルランドの昔話の本を購入した。また荷物に本が増えたが、いい出逢いだった。



さて、スライゴ散策に別れを告げて、バスターミナルにきた。
だが、
ドラムシャンボまでのバスがどの乗り場から出るのかわからない…!
土曜日だからか?!バスターミナルに職員さんはだれもおらず、トイレと待合室だけが使えるようになっており、相談できる相手がいない。回送になったバスの運転手さんに聞いてみるも、うまく通じなかったのか「ここの乗り場じゃないよ」の返事。
ドラムシャンボでお世話になるホームステイ先のご主人からメール添付でもらったバスの時刻表と、バスターミナル内にいくつも点在するバス乗り場の時刻表を、走り回って交互ににらめっこしながら、自分たちの乗るバス停を探していた。
と…、鮮やかな山吹色のストールをした、背の高い、大きな灰色のバックパックを背負った女の人が
「ドラムシャンボに行きたいの?」
と声をかけてくれた。
そう!!と答えると、
「この乗り場で大丈夫。私もドラムシャンボにこれから行くの」と彼女。
天の助け、ありがとう。
彼女の名前はマッティさん。ドイツ人で、我々と同じ、ドラムシャンボのサマースクールに行くため、アイルランドウエスト空港に昨日降り立ったところらしい。
「私はダンスのクラスに参加するの。去年も来たわ。楽しいわよ」
バスが来るまでいろんな話を聞かせてもらった。マシューさんがドラムシャンボのサマースクールをとても楽しみにしている様子が伝わってきて、嬉しくなった。
ドラムシャンボへのバスは、普通サイズの市バスで、田舎道をどんどんと走っていた。
「おやつたべたい」と子供たちが言うが、適当なものがない。
そういえば…、とゴールウェイで購入した、リコリスの のど飴を子供たちに渡すと
「変な味!」と大騒ぎだった。
スライゴから同じく乗ってきた、向かいに座ったおばちゃん(インドっぽいお顔立ち)は
ずっと携帯電話で誰かと喋っていた。緑色のカゴバックのなかからは、買ったと思われるプチトマトとマッシュルームが覗いていた。


2時間ほどバスに揺られて、ドラムシャンボのバスターミナルに到着!
マッティさんが目くばせで「じゃあね、またね」と言ってくれたので、こちらも手を振る。
またサマースクール内で会えますように。
さて……
ホームステイ先の方からは「家のものが迎えに行きます」とメッセージがあったが…
不安になって周りを見渡すと、銀色の乗用車から男性が降りてきた。
ホームステイ先のご主人、ウォルフガングさんだった。
小柄だけれどしっかりしたからだつき、ウォッシュジーンズにコットンのシャツ。ベルトをしっかり締めてシャツはジーンズにイン。白いものの混じった髪の毛に、優しそうな眼もと、銀縁眼鏡。上品そうなおじさんだった。
ウォルフさんはあいさつのあと
「まだ歩ける元気はある?ドラムシャンボの町を一周散歩して案内しようと思うけど!」
と、にっこにこの笑顔。
え…、もう夕方ちかいけど…。と戸惑う我々。
結局、車に荷物を置かせてもらって、町をぐるりと案内してもらった。
ドラムシャンボには運河があり、シャノン川を通ってボートで色々なところまで行けるらしい。
夏には遠くダブリンの方から船に乗ってここまで来て、船で寝起きし、川をクルーズしてサマーバケーションを過ごす人も多いのだとか。
この写真の家々は、「家ひと部屋と+ボート置き場1つで、月◯◯ユーロ」という物件らしい。
「駐車場付き」の代わりに「駐船場付き」!はじめて聞いた。
この日も運河の桟橋では、3艘の船が停泊していて
船の中で談笑したり食事を作っている人の姿があった。
桟橋の先をウォルフさんが案内してくれたのでついていくと、船のなかからサマーワンピースを着た栗色の髪の毛のおばさんが出てきて、我が子たちにチョコレートビスケットをくれた。
散歩の途中にみたお家。まるで絵本の「ちいさいおうち」のようなかわいらしさ。

夕方から町案内なんて…と思っていたが、夕方といっても時計上の時間だけで、実際のドラムシャンボはまだまだ真昼のようだった。サマータイム、すごい。
ドラムシャンボは運河あり、せせらぎ聞こえる小径あり、小さくて歩きまわりやすそうな町だ。良かった。
そしてウォルフさん、歩くのが速い!
私と子供たちは、だるまさんがころんだ のように
時折走りながら、必死についていった。
歩き終わって、19時ごろ、ようやくホームステイ先に到着。
奥さんのパムさんとご挨拶。
パムさんは六角形の素敵なサンルームに私たちを案内すると、
ドーナツやベリーの入ったケーキ、クッキー、ヨーグルトなどを出して、お茶をすすめてくれた。
なんとここから、21時近くまでお茶の時間が繰り広げられたのだ。
パムさんは終始まごまごする私たちに
「心を開いて。何でも話したり聞いてみたりすることが肝心よ」と身振り手振りを交えて話してくれた。
この旅最後の目的地にして大本命のドラムシャンボ滞在は、こんな風に幕を開けたのだった。
